保険業法改正の背景と概要
2025年5月12日「保険会社向けの総合的な監督指針」(以下、「監督指針」とします。)の改正案が公表され、6月6日に改正保険業法が公布されました。
保険業法については附則第1条において「この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」と定められており、2026年6月6日までに保険業法施行令(以下「令」とします)・施行規則(以下「規則」とします)の改正案が示され、パブリックコメントを経て改正法令が施行されます。

(保険業法(平成七年法律第百五号)附則第1条)
今回の改正は保険募集の適正化を目的としたものですが、影響範囲が非常に広く全体像を掴みにくいものになっているかもしれません。
本稿では改正内容のうち保険代理店の業務運営に大きく影響する事項をまとめ、概要を説明します。
今回の改正は、保険募集の適正化を目的としたものですが、影響範囲が非常に広く、全体像を掴みにくいものになっているかもしれません。
本稿では、改正内容のうち、保険代理店の業務運営に大きく影響する事項をまとめ、概要を説明します。
保険代理店に影響する改正内容の整理
保険業法令・監督指針のいずれも、改正内容には保険代理店に直接的に影響するものと間接的に影響するものがあり、それぞれ下表のとおりとなっています。
直接的に影響するもの | 間接的に影響するもの |
|---|---|
・大規模乗合代理店における体制整備義務の強化(法294条の4 | ・保険代理店に対する保険会社による適切な管理・指導等の実効性の確保(法100条の2の2(193条の2、271条の21の3) |
・乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保(監督指針Ⅱ-4-2-9)※2 | ・保険会社による保険代理店に対する便宜供与の適正化(監督指針Ⅱ-4-2-12、Ⅱ-4-2-13) |
・顧客情報管理態勢の強化(監督指針Ⅱ-4-5-2)※3 | ・代理店手数料ポイント制度(監督指針Ⅱ-4-2-14) |
※1:条文上、損害保険代理店を対象としていますが、改正法案に付属する資料には「生命保険代理店に対しても、政令において上記と同じ措置を規定する予定」と明記されており、生命保険代理店にも影響を及ぼすものと思われます。特定大規模乗合代理店の要件は、現時点で未定ですが、衆議院における答弁において、油布企画市場局長が「保険会社から受け取る手数料等の金額が年間で一定額以上であることなどを要件とする」としたうえで、「概ね、70社から100社程度になるのではないか」と発言しています。※2:これに加え、今後、改正される規則において、同第227条の2が改正され、比較推奨販売における、いわゆる「ハ方式」の廃止が確実視されています。※3:監督指針の定めは保険会社を対象としていますが、保険会社における顧客情報管理態勢の強化は委託先である保険代理店にも影響すると考えられます。
保険代理店に求められる主な対応内容
保険代理店におかれましては、上記表のうち「直接影響するもの」について主体として対応する必要があります。代理店の規模や性質によって課される義務が異なるため、下の図のとおりまとめ直し、各規制について概要を示します。

1,顧客情報管理態勢の強化について
監督指針は「Need to Know原則」、すなわち業務遂行に必要な者が必要な範囲で顧客情報にアクセスし利用すべきことを強調しています。
具体的には保険会社を対象としてアクセス権限の管理、アクセスの追跡、情報持ち出し防止のための態勢、不正アクセス防止のためのシステムの堅牢化等を求めており、保険代理店においても保険会社からこれらの整備が求められ、ITシステムの構築を中心とした対応が必要になると考えられます。
2,適切な比較推奨販売の確保
監督指針Ⅱ-4-2-9(6)に次のとおり定められています。

つまり、顧客の意向に基づく適切な商品を提案することを目的として所属保険会社から得られる過度な便宜を選定基準とすることを禁止したうえで、そのルールが守られているかをチェックし問題があれば是正することを求めています。
この「チェック」の実施のために保険代理店において個々の募集行為を事後的に検証するための仕組みが必要となります。膨大な数量の保険募集行為についてその詳細を確認せねばならず、保険代理店の規模によっては保険募集行為をITシステム上で管理し、AIなどで適切性を検証する必要が生じるのではないかと考えられます。
3,特定大規模乗合代理店における体制整備
特定大規模乗合代理店に該当する場合、
- 営業拠点・事務所ごとに法令等遵守責任者を設置
- 本店・主たる営業所に法令等遵守責任者を統括する者を設置
- 保険募集業務に関する苦情を適切かつ迅速に処理するための窓口を設置し、苦情処理の記録を作成・保存
することが求められます。
法令等遵守責任者とその統括者については「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書において次のとおり言及されており、法令等遵守の知識を持った人材の確保・育成が重要になると考えられます。

(「2024年12月25日公表『損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ』報告書」7頁)
苦情対応窓口の設置・運営においても同様に、その実効性確保の点から苦情対応に精通した人材の確保・育成が必要となるでしょう。
4,兼業特定大規模乗合代理店における体制整備義務の上乗せ
保険金支払に不当な影響を及ぼすおそれのある業務を兼ねる特定大規模乗合代理店については、3の①~③に加えて、
- 保険金請求に関する兼業(※4)が保険金支払に不当な影響を及ぼさないよう監視し、また、顧客に不利益を与えることを防止するための措置
- 当該兼業に関する苦情を適切かつ迅速に処理するための窓口を設置し、記録を作成し保存するための体制の整備
が求められます。
※4:ビッグモーター社における自動車修理業が該当します。
苦情対応窓口の設置については3の③の延長で対応でき、その影響は限定的でしょう。しかし④については、今後その詳細が令・規則の改定案等で示されることになりますが、保険金請求業務の適切性をチェックするための全く新しい機能の設置が求められる可能性もあり、影響の大きい規制となり得ます。
まとめ
以上、今回は改正保険業法が保険代理店に及ぼす影響についてその概要をお伝えしました。今後も情報を追加していく予定ですので、引き続きご覧いただければ幸いです。